ニュースの概要

米国の清掃業界団体IJCSAが、孤独死、犯罪現場、血液や体液、下水の逆流といった現場を対象にした、バイオハザード清掃の考え方を解説した。ふだんの掃除と同じ道具や洗剤では、感染の恐れがある物質に触れる危険や、汚れを別の場所へ広げてしまう二次汚染を防げない。そのため、専門の訓練を受けた作業員、防護服や手袋などの個人用保護具、汚れの除去と消毒を分けた手順、汚染物の適切な処分が必要だと述べている。清掃を単なる美化作業ではなく、健康被害を防ぐ衛生管理の仕事として位置づけた点が特徴である。

引用元: 米国の業界団体がバイオハザード清掃の安全基準を解説(International Janitorial Cleaning Services Association)

分析・見解

見た目のきれいさと安全は別物である

血液や体液が残る現場では、床がきれいに見えても安全とは限らない。目に見えない病原体が、布や木材、畳の奥に染み込んでいるからだ。一般の清掃は汚れを落とすことが目的だが、バイオハザード清掃の目的は、人が再び安心して使える状態に戻すことである。この違いが、道具選びから作業の順番まで、すべてを変える。

たとえば雑巾で拭き広げれば、汚染範囲は逆に大きくなる。掃除機を使えば、空気中に微粒子が舞う恐れもある。つまり、普段の掃除で身についた習慣そのものが、この種の現場では危険になる。

防護具と作業手順が、作業員自身を守る

今回の解説で重いのは、守る対象を依頼主だけでなく作業員にも置いている点だ。防護服、手袋、マスク、ゴーグルは、着るだけでは意味がない。脱ぎ方を誤ると、外側についた汚れが皮膚や衣服に移る。現場の入口で着替え、出口で脱ぎ、汚染物は専用の袋で封じるという一連の流れが、一つの安全装置になる。

米国では、血液を介する病原体への曝露防止を定めた労働安全の基準が古くから知られている。業界団体が訓練や認証を前面に出すのは、この規制に沿った体制を示すためでもある。同様に、洗剤を使った汚れ落としと、消毒剤を使った殺菌を別の工程として扱う発想も重要だ。汚れが残ったままでは、消毒剤は十分に効かないからである。

日本の特殊清掃が抱える制度のすき間

日本でも孤独死の現場は増えている。内閣府の高齢社会白書などが示すように、一人暮らしの高齢者は増加傾向にあり、発見が遅れて遺体の腐敗が進む事例も少なくない。ところが、特殊清掃を名乗るために必須の国家資格は、いまのところ存在しない。民間の認定制度や講習が複数あるだけで、水準は事業者ごとにまちまちである。

ここに、米国の議論が示すヒントがある。作業内容を標準化し、第三者が確認できる形にしなければ、依頼者は価格や口コミでしか業者を選べない。結果として、安全に費用をかけた事業者ほど、見積もりが高く見えて不利になる。

廃棄物の処理まで含めて初めて完結する

見落とされがちなのが、汚染物の行き先である。寝具や畳、床材などは、現場で消毒しても再利用できないことが多い。日本では、遺品整理で出る家財は一般廃棄物として扱われる場合が多く、収集運搬には自治体の許可を持つ業者が関わる。一方、血液が付着した物の扱いは、医療廃棄物のように明確な全国共通の線引きがなく、現場判断になりやすい。

ここに規制の空白があると、安い業者が不法投棄に走るおそれもある。清掃の品質は、作業の瞬間だけでなく、処分の記録まで追えるかで測るべきだろう。今後は、写真記録と廃棄物の管理票を組み合わせた報告書が、信頼の目安になっていくと考える。

ビジネスへの影響

見積もりの比較は、作業範囲の中身で行う

依頼する側の不動産オーナーや管理会社は、総額だけで業者を選ばないほうがよい。確認したいのは、防護具の種類、消毒薬の種類、作業後の臭気や汚染の確認方法、廃棄物の処理ルートである。安い見積もりは、これらのどれかが省かれている可能性がある。契約前に作業工程を書面で出してもらうだけで、トラブルの大半は避けられる。

また、作業前後の写真と報告書を必ず残してもらいたい。次の入居者への説明や、保険の請求、近隣への対応でも役に立つ。

特殊清掃事業者は、教育と記録を売りにできる

事業者側にとっては、安全基準の見える化が差別化になる。社内の訓練記録、防護具の着脱手順、感染症への対応方針を、ウェブサイトや見積書に載せるとよい。依頼者の多くは遺族や管理会社で、突然の出来事に動揺している。専門性を落ち着いて説明できる会社は、それだけで選ばれやすくなる。

さらに、作業員の健康管理も経営課題である。予防接種や、針刺しなど事故の報告体制を整えておけば、離職防止にもつながる。人手不足の業界だからこそ、安全に働ける職場であることが採用上の武器になる。

相談窓口と提携先を平時に決めておく

賃貸経営では、孤独死はいつ起きてもおかしくない出来事である。発生してから探すと、判断が遅れ、被害が広がる。平時のうちに、特殊清掃、遺品整理、廃棄物処理、保険の窓口を一覧にしておくと、初動が早くなる。費用の目安を知っておくだけでも、遺族への説明が落ち着いて行える。

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